カンボジア事情 第21回「カンボジア初の「道の駅」がポーサット州国道五号線にオープン」

(株)建設技研インターナショナル 道路交通部 金子公生

はじめに

カンボジアで初となる「道の駅」がポーサット州、国道五号線沿いに オープンしました。この「道の駅」は、ASEAN統合を実現するための ASEAN諸国の努力を日本政府が支援する枠組みの一つである、 日ASEAN統合基金を通じた日本の支援により建設されたものです。
「道の駅」が建設された国道五号線はタイ、カンボジア、ベトナムを結ぶ 南部経済回廊の一部であり、この道路は物流機能や観光開発の面において 非常な重要な役割を担っています。この南部経済回廊の輸送利便性の向上、 物流の活性化、即ち、地域流通量の増加を促進し、輸送自体のニーズを高め、 ひいては、地域内の商業活性化と拡大振興が必要です。そのために、 この「道の駅」の整備は、道路利用者に対する休憩サービス提供による 交通事故軽減を図り、また、地域産品の流通・販売、地域や観光の情報交換を 通して、回廊の利便性を一層向上させ、地元産業の発展を通じた地域振興の 拡大等を図ることを目的としています。

(1)「道の駅」の整備発想

道の駅の整備は、日本で1993年4月、「鉄道に駅があるように、道にも 駅があってもいいのでは」という発想から始まりました。「道の駅」 登録第1号は、1993年4月22日に全国103ヶ所の施設が「道の駅」として 正式に登録されました。現在、日本全国の国道で1000ヶ所以上の「道の駅」 が運営されています。
「道の駅」発祥については、1998年、11月に新潟県豊栄市(現新潟市北区) の国道7号線新新バイパス豊栄道路情報ターミナル(現「道の駅豊栄」) が旧建設省(現国土交通省)によって建設されたという豊栄発祥説があり、 現在、「道の駅発祥の地」という石碑が建立されています。

(2)「道の駅」の事業化

カンボジアにおける「道の駅」の事業化は初めての試みです。 「道の駅」は公共施設を設置するだけでなく、ポーサット州の良さを 伝え、道路利用者及び地域住民の満足度が得られる運営管理をしなければ なりません。運営主体をどうするのかについて、カンボジア政府と日本側間で、 長時間をかけ検討を行いました。効果的な運営・管理を行うために、 政府の直営でなく、民間企業の経営能力及びノウハウを利用する “Public-Private Partnership (PPPシステム)”官民協力システムを 導入することになりました。PPPシステムは、①政府と民間の共同出資により 設立する「第三セクター」事業主体、②民間セクターだけの投資によるPFI 事業主体、③近年、日本で運営効果をあげている、施設運営管理を特定の 民間会社に委託する指定管理者事業主体等があります。ポーサット「道の駅」は、 カンボジア政府の財政負担を軽減する“指定管理者システム”を適用することに 決まりました。「指定管理者システム」とは、簡単に言えば、日本援助で 建設された「道の駅」建物を、カンボジア政府が選ばれた特定の団体に 運営管理を委託することです。

さて、この指定管理者システムの導入はカンボジアでは、初めての 試みです。また、指定管理者の選定は、如何なる団体・民間会社も参加できる 「公募」による資格・提案書による競争入札を行いました。この公募による 「提案書作成」による競争入札もカンボジアでは数少ない経験であったと 思います。応募会社から提出された「提案書」は、次の項目について評価が 行われました。

最終的に、応募会社のうち、ポーサット州内の地元製氷・ホテル経営会社が 受注し、ポーサット「道の駅」の運営管理を行う指定管理者となりました。

(3)「道の駅」の施設機能

日本の国土交通省で定めた「道の駅」設計基準にあるように、 休憩施設・情報発信施設・地域連携施設の3つの機能を持たせたもの を「道の駅」認定基準としています。「道の駅」認定基準は、概ね、 次に示す項目のとおりで、国土交通省の「道の駅」登録・案内要綱の 申請に基づき、登録書が交付されます。

ポーサット「道の駅」施設の機能は、カンボジアの慣習や国民性及び ポーサット州の地域特性を考慮し、幾分、アレンジされていますが、 日本の「道の駅」設計基準を見本として設計され、①休憩施設 (トイレ・駐車場)、②情報発信施設(観光スポット等の地域情報・ 道路情報コーナー)、③地域連携施設(レストラン・地域特産品販売・ ショップ)の3機能から構成されています。ポーサット「道の駅」の 各施設の機能内容は次のとおりです。

①休憩施設

休憩施設は無料トイレと駐車場から構成され、24時間利用できます。 トイレは誰もが安心で快適に利用できる清潔な水洗式洋式トイレを整備 しました(女性用トイレ:13器、男性用トイレ:大6器・小8器)。 また、身体的な社会的弱者に配慮したトイレ(1器)も用意し、 車椅子利用者が、施設外からスロープ付通路を通って利用できます。 駐車場は、大型車(4台)、小型車(24台)、二輪車(30台)が別々に 専用エリヤに駐車できるように配置し、国道五号線からのアプローチが 容易で、道路から「道の駅の賑わい」がよく見えるように配置しました。

②情報発信施設

ポーサット州のシティセールスを行う目的で情報コーナーを 整備しました。これは州内の観光情報、地域情報、道路情報などを 「道の駅」利用者や地域住民が求める情報を提供することです。 無料のポーサット州都内地図や観光スポットのパンフレットを 配布しています。今後、活気ある情報コーナーとして、州都内及び 国道五号線沿線の主要な他州都と連携を広げた一体化や、地域住民の コミュニティ広場として、無料インターネットやイベント情報の 整備拡大を推進していきます。

③地域連携施設

地域連携施設はレストラン、地域特産品販売、ショップから構成 され、6:00時から22:00時まで営業です。この施設は、地元コミュニティ と一体化し、直営レストランと地域生産品の直納や地域店舗のテナントが 参加し、地域振興に寄与することを目的に、ポーサット州の良質な地元 産農産物、手工芸品、加工品のシティセールス施設です。現在、地元産の 特産品を販売しています。レストランは、他のレストランと変わらない 値段にしていますが、集客力を高めるために、味を売り物しています。 地域生産物に関しては、今後、一州一品運動や職業訓練校と協力し、 豊富な地域材料(トンレサップ産淡水魚・ポーサット米・大理石彫刻・ 織物等)を使用した付加価値を高める商品を開発し、新しくポーサット発 のブランド商品(米菓・ジャム・乾魚スライスパック・大理石人形細工等) を売出す方針です。

④その他イベント広場施設

建物前面にイベントが出来るようにプラザを整備しています。 季節ごとの屋外イベントが出来る広場で、地元の祭り、農業祭、 結婚パーティーの開催に、無料で利用出来るようにしました。同時に、 これらイベントに開催によって、「道の駅」レストランからの食事の 供給をしてもらい、「道の駅」の公共性を図ると同時に、集客と 売上向上を促進することが出来ます。

(4)「道の駅」の施設デザイン

ポーサット「道の駅」は、カンボジアでは始めての建物で あるため、言わば、実験的な試みといっていいでしょう。そのため、 施設規模は、過大投資となるような大規模な分散配置の施設ではなく、 施設内の動線を短くし、コンパクトに1棟にまとめた集合配置システムを 適用しました。

①「道の駅」のサインとなる施設

「道の駅」施設が分かり易くランドマーク(シンボル)性のあるデザイン、 即ち施設の顔を作るデザインを行いました。カンボジアの道路利用者が、 親しみ易い伝統的なデザイン様式をモチーフにして取り入れ、オレンジ色の 屋根瓦と風が吹きぬける二重の屋根を取付けました。

②省エネルギーに配慮した建築物

施設の構造は、道路側の正門と田園風景の裏側を広く開けた 入り口を配置し、天井を高くして採光を入れるなど、明るく しました。カンボジアの地方の電気代は高いため、維持管理費を 節約する必要があります。そのため、広いロビーに冷房装置は 設置せず、風が十分に吹き抜けるように、道路側の正門と 田園風景の裏側を広く開けた出入口を配置し、省エネルギーに 配慮した建築物となっています。

③眺望を活かしたレストラン

施設のレストランとロビーは、西側の見通しの良い田園景観と 南側のパノラマ的な山々の眺めを活かして配置し、また施設内からの 修景施設等に対する眺望も考慮して配置しています。また、建物前の メインプラザは、「道の駅」の賑わい空間をアピールし、利用者の 視認性を高めるように配置しています。

④掘削した深井戸から給水

ポーサット州都からの公共水道が、「道の駅」前4kmまで 整備されて、延伸計画がありますが、建設・運営までに間に 合わないため、自前の深井戸を掘削しました。深さ134mで 飲料可能な良質水が得られ、施設に必要な水量が確保できました。

⑤「道の駅」案内板の設置

「道の駅」の500m手前の国道5号線の路側に、図記号で 示した案内標識を設置し、ドライバー・乗客者に「道の駅」が あることを標示しています。

(5)「道の駅」運営管理

継続した「道の駅」の運営を行うためには一定の 利益が必要で、それを支える運営事業組織の技術移転と 教育が必要です。2011年10月に、カンボジア政府ステーク ホルダーに対するワークショップを、日本の東京都で唯一の 「道の駅八王子・滝山」を運営している駅長及び指定管理者を 講師として、首都プノンペンで開催しました。また、2011年12月 に、コンサルタントによる指定管理者のトレーニング及び 「道の駅」立上げ支援をポーサット州都で実施しました。 ポーサット「道の駅」が、成功するために、①清潔な施設の 維持管理、②金銭管理、③利用者が魅力的と感じるサービス、 ④ポーサットブランド商品の開発等が重要で、これらに焦点を 当てて、技術移転とトレーニングを行いました。

①清潔な施設の維持管理

施設の維持管理は、カンボジア政府による大規模な 修理を除けば、日常の施設維持、清掃管理、植栽管理、 保守点検、備品の供給、警備、廃棄物処理等です。 これらは、直接、営業利益がないために、指定管理者は 軽視しがちです。公共施設としての役割認識と、利用者への サービスを教育しました。特に、清潔なトイレはポーサット 「道の駅」のセールス目玉としています。

②金銭管理

「道の駅」における売上の一部は施設利用料となり、 指定管理者が「道の駅」を維持管理するための重要な資金と なります。売上金の算定や管理に問題があった場合、道の駅の 維持管理にも影響を及ぼす懸念もあることから、公正な 金銭管理を教育しました。

③利用者が魅力的と感じるサービス

「道の駅」で魅力は、レストランのメニューと その味、施設の使い易さ、従業員の接客等が挙げられます が、ポーサット「道の駅」では、従業員のスタッフの接客 サービスが大きく欠けていました。指定管理者は、 「カンボジア-日本、友好のポーサット道の駅」であること にプライドを持ち、日本式のサービスを習得したいとの 気持ちがあったので、「接客」の基本である「挨拶・ 言葉遣い」、「笑顔」、「動作・態度」について指導教育を 行いました。特に、接客8大用語を繰返し、練習しました。

④ポーサットブランド商品の開発

前述のように、一州一品運動や職業訓練校と協力し、 豊富な地域材料を使用した付加価値を高める商品を開発し、 新しくポーサット州都発のブランド商品を売出す方針です。

終わりに

「カンボジア-日本、友好のポーサット道の駅」の成功の 糸口は、この「道の駅」オープンを広くPRして、集客力を 高めることです。日本の援助で建設されたカンボジア初の 「道の駅」のサポートをお願い致します。宣伝広告の一つ として、利用者に「オープン記念うちわ」を配布しています。



<ポーサット「道の駅」の場所>
カンボジア初の「道の駅」は、国道五号線沿い、 首都プノンペンから約174km、ポーサット州都の手前約7kmに あります。施設は、レストラン、お土産屋、観光案内所や 清潔なトイレが設置されており、営業時間は6時から22時まで、 トイレは24時間利用可能です。道の駅500m手前には、位置を 示す看板も設置しており、これが目印となっており、暫く走る とクメール様式の建物が目に入ってきます。道の駅の事務所連絡先 は、052-66-66-84となっており、英語、クメール語での対応が 可能です。日本人会の皆様におかれましても国道五号を使い、 ポーサットやバッタンバン等へお越しの際には、是非ともこの 「道の駅」をご利用下さい。

日ASEAN 基金東西回廊・南部経済回廊物流効率化プログラム に係る通関・税関施設及び道の駅の整備プロジェクト
(株)建設技研インターナショナル 道路交通部 金子公生