プノンペン補習授業校の発展を祈る

プノンペン補習授業校校長
篠原 温雄

 カンボジアに派遣され三か月が過ぎたころ、前日本人会会長の神崎さんからお電話をいただき、「補習授業校の校長」への要請があった。私はJICA・SVでプノンペン市の教育青年スポーツ局に所属している。休日の土曜日の午前中のみの学校ということで、少しでも役にたてるならという気持ちで引き受けたのである。
 プノンペン補習授業校は、日本国大使館から国の支援を受け、カンボジアの日本人会が保護者の全面的な協力によって運営している学校である。教員は日本の文部科学省からの派遣教師ではないが、プノンペンで生活している方の力を借りている。幼稚部から中学3年生まで、土曜日のみ、開いている。普段、子供たちの多くは市内のインターナショナルスクールに通い学んでいる。補習授業校は週に1度なので、日本のカリキュラムのように十分な授業はできていないが、小、中学校では、日本で使われている教科書を使用して、算数、国語を中心に授業を進めている。「友達に会えるから学校が一番楽しい」というのが生徒たちの声である。
 その中で、少しでも園児、児童、生徒たちが、日本語を通して、日本の文化に触れ、習慣を身に付けるよう、日本語図書の充実や行事を通しての活動を行っている。一年間、37日という少ない授業時間の中で、特色ある行事を計画し、取り組んでいる。4月の入学式、6月の社会科見学、10月の日本人会の盆踊りの参加、2月の日本人会運動会への参加、3月の卒業式、その他にもひな祭り、端午の節句、七夕、クリスマス会や書初め大会そして避難訓練など、さまざまな工夫をしている。行事ごとに担当の保護者が計画や準備、実施まで協力するのである。役員の皆様をはじめ保護者の皆様のご苦労にはいつも頭の下がる思いである。
 カンボジアという、文化、環境が異なる国で、日本の伝統や文化を子供たちに体験させたいという親の強い思いをいつも感じる。また、保護者の中には、国際人に育てようと考える一方、子供たちにとって海外での生活はマイナスだったのではと悩み、子供の教育に迷っている人がいるという声も聞く。そのために、小学校入学、中学校入学、あるいは高校入学を境に、母と子は日本に戻り、父親が単身で仕事をするため、家族が離れ離れになるというケースも耳にする。
 もう、20年以上も前のことになるが、1991年ソ連が崩壊しロシアとなったころ、私は大使館付属モスクワ日本人学校で教師として3年間勤務したことがある。社会情勢の厳しい変化に見舞われたモスクワでの生活は、教師、生徒、保護者との絆を固くしてくれた。互いに助け合うのが当たり前のことで、みんなで助け合って生活した。そんな思い出があり、その時以来、私は「海外日本人学校で学ぶ子供たちや保護者に手助けができれば」と考えていた。
 日本人学校での教師経験から言えることは、今以上にプノンペンに暮らす子供たちの教育環境や内容を充実したものにするには、近隣の諸国ベトナム、タイ、インド、マレーシア、シンガポールにあるような「文部科学省認可の日本人学校」を作ることが最良の方法だと思う。大使館、日本人会、商工会の協力があれば、国からの専門教師の派遣もあり、充実した教育環境で、素晴らしい学校を作ることができると確信する。親も安心して、カンボジアの社会整備支援や経済協力の仕事に取り組むことができるのである。
 平成22年度2学期からお世話になった補習校とも、別れの時が来てしまった。カンボジア日本人会、プノンペン補習校の発展、お世話になった皆様のご多幸をお祈りし、感謝の言葉としたい。