バッタンバンエッセイ晴読雨耕Vol. 1~4

安田 理裕

「会報誌」

 これまで何回か書かせられた、もとい、寄稿させて頂いたことがありますが、ツイッター、ソーシャルネットワーキング、ブログが全盛の現在、印刷屋のおじさんに「納期、間に合います?」なんて聞きながら準備が進められ、配達屋のお兄ちゃんに手渡しで届けらてれるところが、けなげな感じで好きだ。
 僕の場合、バッタンバンまで届けてもらえないので、プノンペンの知り合いの店が届け先になっているのだが、そういうフレキシブルなところもよい。
 なんて書いたのも早半年前。担当役員の多忙により(?)、なかなか日の目を見ることがなかったこの連載もついに表に出されるときが来たそうだ(4号分まとめて!)。忘れられても気にもされない会報誌。このけなげな存在を今後も応援していきたいと思う。
会報誌では表現しきれないであろう空の色。

「晴読雨耕」

 六月からのバッタンバン暮らし。本稿を書くに当たり、適当な題名を考えてみた結果がこれ。
 勿論、晴耕雨読が元々の言葉だが、カンボジアだと農業は雨季にやるものなので、「雨耕」だなと。逆に晴れの日ばかりの乾季は、皆日陰にいるんで、じゃあ「晴読」かなと。
 実際には本を読んでる人なんかはいないんで、「晴寝雨耕」又は「晴電視雨耕」辺りが正解かもしれないが、個人的な目標としての「晴読雨耕」である。

「エッセイ」

 エッセイってのは、思ったことを徒然なるままにというものだが、バッタンバンのように情報や刺激が乏しい場所では、あまり思いつくことがなさそうなので、このエッセイもどの程度続くのか怪しいところ。
 できるだけ続けられるように、たまにプノンペン辺りで刺激を受けようと思っているのだが、それはネオンの刺激だったりするんで、そういう内容になってしまう可能性が多分にある。
 発行人、それでも構わないですか?
SAYURIブランドの剃刀。女性向けか?

「マッサー・バイ・メン」

 やっと、バッタンバンの話。
 バッタンバンで友人(男)と会い、適当な飲み屋に行ったら、笑顔が素敵な若い店員さん(男)に「へロー、ユー・ライク・マッサー・バイ・メン?」と聞かれた。特に気にも留めずお断りをし、その日は適当に飲んで家路についた。後日その友人と再度その店を訪れると、明らかにそっち系のバランたち(男)で賑わっている。それはそれは楽しそうなチットチャットで盛り上がる仲むつまじそうな男たち。
 む、む、む?
「マッサージ・バイ・メン」、バッタンバンの発展の証也。

「オレンジ」

 ポーサットオレンジだか、バッタンバンオレンジだか、この辺でよく売られていのだが、地元民からはベトナム産が多いという話をよく聞く。
 確かに、地元のオレンジ農家は病気で打撃を受け、他の作物を作る人が増えているようだし、数年前には、農業大臣がオレンジ生産を止めるよう農家向けのコメントを出していたはず。
「じゃ、何割くらいがベトナム産なの?」
「ベトナムのどこでつくってるの?」
 こういう細かい質問になってくると答えられる人は少ない。
 調べるにしても、どこから手をつけていいのか、この辺がカンボジアである。
市場でよく目にするオレンジ チェンマイ産のシール。

「アリ」

 夜、家呑みなどをした後、酔っ払ってそのまま寝てしまうと、朝にアリの大群に遭遇したりする。
 これが床だったりすれば、殺虫スプレーの後、モップで掃除してしまうし、テーブルの上なら、アリが群がる食いものを捨てヤツらがいなくなるのを待つのだが、砂糖壺のようなものの処理には、ちょっと迷ってしまう。
 ある日、カンボジア人の家で似たような状況に出くわしたところ、彼らはそのアリが群がる食いものを何の迷いもなく冷凍庫に突っ込んだ。曰く、こうやってアリが死んでから、食えるところを食えばよいとのこと。おお、なるほどね。

「女子プロ」

 突然ですが、私、断然、「女子アナよりは女子プロ派」です。
 以前、某フリーペーパーで「戦うエリカ様」ことアジャ・コング(本名:宍戸江利花)が、カンボジアで女子レスラーを募集しているという記事を見つけたときには、そらもう燃えましたよ。
 記事を読んで早速、よく行くカラオケ屋にいるガタイのいいクマエ女子に、「君はベルトを獲れる逸材だ!」とリクルートを仕掛けてみたのだが、即お断りを食らってしまった。すごくもったいない!残念!
 お断りの理由は、「スポーツの類は一切やったことがないので・・・。」というもの。
「この国の教育には保健体育が必要だ!」
 と某NGOの方が力説しておりましたが、やはりその辺から始めるべきなんでしょう。それだな、鍵は。
雨季のバッタンバン。雨が降ってるとこと降ってないところの間に立って撮影。

「女ドップ」

 最近、モトドップ(以下、「ドップ」)に乗ること自体があまりないので、その辺の情報には疎いのだけど、噂で、プノンペンには女性のドップがいるという話を聞いた。
 男のドップはその姿格好がイメージできるのだが(中年、韓国製の新聞屋中古バイク、サングラス、スラックス、サンダル)、女のドップは一体どんな格好なのだろうか?
 で、やっぱ、女性専用車なんだろうか?
 情報、求む。

「フェイスブック」

 カンボジアでも若者の間でフェイスブックが人気のようで、フェイスブックに関する歌ってのまで出てきた。しかも複数曲。
 新しいテーマだなと思って聴いてみれば、なんてことはない、フェイスブックという技術を使いつつも、クマエポップ伝統かつ永遠のテーマ、「男と女の心の触れ合い、そしてすれ違い」がしっかりと本筋に据えられている。
 最近、彼氏から返信(?)が来ないと思ったら、他の女にうつつを抜かしてたって話やら、フェイスブックを通じて知り合った異性に抱く淡い恋心みたいな歌詞。
 新しい技術を受け入れつつ、伝統を頑固守ろうとする姿勢に敬服。クマエ魂洋才である。

「地雷被害者」

 減少傾向にあった年間の地雷・不発弾の被害者数が、2010年わずかながら増加した。1992年にデータを取り始めてから、初めてのことだ。その数約300人。
 カンボジアの人口は、ざっくり言って日本の1/10程度。日本で言えば、約3000人が地雷・不発弾の被害に遭ってるということか。
 地雷や不発弾の被害に遭うのは、地方に住む、特に貧困層が多いので、これはこれで問題ではあるが、日本の自殺者が年間3万人ってことを考えると、東京でサラリーマンなんかをやってるほうが、バッタンバンで暮らすより10倍危ないってことになる。
 ならないか?

「キックボクシング」

 皆さん、好きですね、キックボクシング。僕も嫌いじゃないです。生の試合も見に行きましたよ、生エイ・プトンを。(注:国民的英雄)
 会場入口のあり得ない混雑(周りは9割モトドップ的な格好のおっちゃん)とパイプ椅子を自分で並べなきゃならないシステムには参ったが、よかったっすね。母国の英雄が、欧米人のボクサーをハイキック一発で倒す姿に熱狂する観客たちは、力道山に熱狂した我々の先祖と似たような感じなんでしょう。
 以前の「国際的な試合」はガイジンの噛ませ犬を相手にしたものばかりだったが、最近はISKA(注:国際的な格闘技組織)の世界戦も組まれるようになり、より本格的な格闘技となりつつある。今後は海外のリングで活躍するクマエボクサーに期待をしたいところだ。
「老人に注意」の看板ではなく「近くに障害者施設アリ」の看板。

「チューリップハットとタオル」

 シェムリアップ辺りで目にする外国人観光客の話。
 欧米人女子の野球帽、韓国女子のサンバイザーに対し、我がなでしこ女子はチューリップハットが多いような気がするが、どうだろうか。
 よく分からないから勝手にチューリップハットと呼んでいるのだが、正式にはなんと呼ばれるものなのでしょう、あれは。日本ではあまり目にしない気がするが、あれは海外旅行用という位置づけなのだろうか。ちなみに、個人的調査によると、被ってない子のほうがカワイイ度が高い。
 そして、サムライ男子観光客のマストアイテムと言えばタオルだろう。お風呂用のタオルではなく、オシャレ用のタオルである。頭にくるりと巻くのが粋らしい。やっぱりこれも日本ではなかなか見ないので、この辺の国に来るときだけのものなのだろう。わざわざ買いに行ってたりするんだろうか。
 頭にタオルに無精ヒゲ。場所が日本ならば、ちょっとワイルドな感じにも見えるんだろうが、この国で選択を間違えると、彼らを乗せてバイクを運転するモトドップのおっちゃんのほうがワイルドな装いだったりするので、そこは注意だろう。

「カラオケ」

 やっぱり出ました、この話題。
 ご存じの方もいると思うが、この国にあるカラオケマシーン(日本語版)の多くは、同じものである。厳密に言えば、マシーンではなく収録されている曲が同じなのだ。個人的調査によると、外国人客の多い数店を除けば、どの州でも同じという結果。
 しかも、このマシーン、曲がアイウエオ順じゃなく、文字数順で並んでいるために、指を折りながら好きな曲の曲名の文字数を、必死に数えるというマヌケな姿を晒すことになったりする。酔っ払って数も数えられないときなど、情ないことこの上ない。
 あの機械、なんでああなっちゃったんでしょうか?あれはどこから来たんでしょうか? すんげえ気になってます。
やっちゃったドライバーの図。

「結納」

 カンボジアの若い男の子に、「結婚しないの?」と聞くと、「ノー・マネー」という答えが返ってくることがある。詳しく聞けば、カンボジアにも結納の制度があり、その高い結納金を払えないとのこと。プノンペン市内なら相場は数千ドルかららしい。
 女性陣からは、「あたしたちは貨幣価値で測られる対象物じゃない!」という怒りが出てくるどころ、とにかく高い結納金を払ってくれるほうがいいということのようだ。本人たちは「愛だけあればお金の話は二の次」というような場合でも、見栄を張りたい新婦側の親の問題もあったりする。
 いずれにしても、これは人身売買のようで女がかわいそうって話なのか、貯蓄額で品定めされてる男がかわいそうって話なのか(あるいは貧乏な男は結婚できないという話)、どっちなんだろう。

「得意技」

 卍固めと言えば、「元気ですかーっ!」でお馴染みのアントンことアントニオ猪木の得意技であるが、プノンペン市民の得意技でも
ある。 と言っても、勿論、リングの上での卍固めではなく、交差点でのことである。
 もうお分かりであろう。信号のない十字路へ四方から車の列が突入し、そこに自然且つ当然発生する卍のことである。一度決まってしまうと、なかなか抜け出す手はない。水祭りのときなど最悪だ。車を降りて立小便をしに行ったが、全く問題がなかったことすらあった。相当な決まり具合である。
 幸い、僕の住むバッタンバンの町において、この技の餌食になったことはない。
 この町に卍固めがお目見えするとき。そのときは、僕は次の引っ越しを考えるときかもしれない。
使ってるうちに黒くなる石鹸か?

「点滴」

 先日、久しぶりに点滴を受けながらモトで移動するおばさんを見かけた。「3ケツ」の一番後ろに座る介護者が点滴の袋を持ってという典型的なタイプの点滴ライディングだ。(これ以外には、自ら点滴のぶらさがった棒を持つというライディング法もある。)
 最初に見たときは結構衝撃的な点滴ライダーも、いつの間にか見慣れ、気にも留めなくなってしまっていたが、最近はあまり見かけることがなくなってきたように思う。病院で見る限り、この国の人たちの点滴好きには変わりはないようだから、点滴ライディングが減ったとすれば、「点滴は病院内で」キャンペーンでも実施されたのだろうか?それとも、国民の間で、「点滴ライディングは格好悪いもの」というオシャレ意識でも生まれてきたのだろうか?
 専門家によれば、そもそも点滴ライディングは点滴のためだけに一泊幾らの入院代を払いたくないという理由で始められたそうで、病院の数が増え、安価なサービスも出てきた今、こうした現象も下火になりつつあるのではないかとのこと。
 経済の発展と共に、点滴ライダーは姿を消していくのだろうか?少しだけ、寂しい気がするのは僕だけだろうか?

「過剰サービス」

 むしろビアガーデンと呼ばれるべき、典型的な田舎のレストラン。入口でホステスの出迎えを受け、席につけばビアガールによる営業と、女性による「サービス」を受けるのが常である。田舎では特に男性が客層の中心だけに、料理以外のこういったところでサービスをするのが当たり前なのだろう。
 そんな中、1つだけ不可解なサービスがある。
 トイレにまつわるサービスである。
 用(小)をたしていると、おもむろに背後から肩揉みマッサージが行われるのだ。客の了解もなしに、一方的に。場所が場所だけに、このサービスだけは男の店員によるものとなる。
 いや、決してこれが女性ならいいと言う訳ではない。女性なら逆に緊張して小便どころではなくなってしまうだろう。
 横を見れば、クメール紳士、もといオヤジがまんざらでもない表情でマッサージ小僧に身を委ねている。
 大抵の日本人なら「小便するときくらいは一人にしてくれ」と思うだろう。結局、壁に向かってものすごく嫌そうな顔をしながら、肩でそのサービスを振り払うのだが、ポジションがポジションだけに、とにかく情けない格好なのである。
この町でしか見ないANGKORブランドのバン。

「日本人会」

 こんな国に来てまで、なんで日本人会?
 理由は色々あると思うが、仕事関係に偏りがちな人間関係の枠を広げるキッカケにはなってくれてると思う。日本では恐らくお友だちになれなかったようなスゴイ人や、お友だちにならないほうがよかったような悪友と知り合えたのも、日本人会のイベントだったはず。
 日本にいると世の世知辛さを感じてしまうが、海外に出てみると、やっぱ日本人って親切な人多いなって感じるし、なんやかんや結構世話になってしまってる。

 そろそろ来年度の会費を払いに行こうかと思っている。