満月と塩じいとわたし

ユキ姐さん
 ひと昔前、プノンペン在住の独身女子の間でひそかなブームがありました。ひと昔というくらいだから、かれこれ10年前。今や結婚に妄想と幻想しか見れなくなったアラフォーの私たちが、まだ結婚にも夢や希望を描いていたうら若きアラサーだった頃のこと。
 そのひそかなブーム。それは「占いツアー」。カンボジアと言えば、結婚相手も婚礼の日取りも、人生の節々で必ず占いをしに行く習慣があるのはご存じの通り。すなわち需要があれば供給あり、ということで1400万人の需要を満たすんだから、相当数の占い師がいるのです。この国には。そりゃあクスぐられますよ。嫁入り前のオンナゴコロ。
 ということで、ありとあらゆる占い師情報を入手しては、土日になるとみんなで占いツアーに繰り出すのが流行っていたのです。なぜツアーかというと、私以外のみんなには、当然私が必要だったからです。なんてったって相手はカンボジア人占い師ですからね。まぁ、人の運命垣間見れて面白いからいいか~ということで、占い師通訳を買って出ていた私ですが、カンボジアの占い師事情、なかなかのものです。

 ものすごく的確にあたる占い師がいるという情報が入ったので、みんなでさっそくツアー結成。集合時間はなんと、草木も眠ってるのだろうか、午前3時。どうして、こんな時間なのよ~と、よくよく聞くと、その占い師は太陽が上がると見えなくなるのだとか。仕方ないので3時過ぎに占い師の家へGo!
 そこにはすでに数名順番待ちの人が並んでるではありませんか。2時くらいからいて、先生が起きてくるのを待っている。しかも、どこか地方からはるばるやって来たのだそう。こりゃぁ相当当たる占い師なんだろう。眠たいんだけど、期待が膨らむ。
 私たちの番になって、3人目までは調子よく占いをしてくれたのに、4人目の友達の手を握って精神集中してしばらく黙りこむ先生。そして目を開き、こう告げた。
「あなたは気が薄いので、私には見えません」
 えっ、そんな…どういうこと?
 理由を聞くと、この占い師は月のパワーで占いをするのだけど、その日は新月で、月が出ていない。なので4人目の友達は、
「満月の日にもう一度来なさい。そうすればきちんと見えるから」
と言われてしまったのです。かなりショックを受けてる4人目の友人に、占い師は
「あなたの開運方法は天然石のアクセサリーを付けること。ダイヤとかルビーとかそういう宝石はダメ。天然石をつけなさい」
と丁寧に指導してくださる。なんという配慮。カスタマーサービス、アフターケアもばっちりよ。へぇ、すごいねぇ。月のパワーなんだねぇ~って、ヘンな感動を覚えて太陽の日が昇ったころに家に戻ったのです。
 私はその占い師に、
「あなたはとても強い気をもっている。強い女性だから、きっと周りから支えられながら成功するわよ」
と言われました。確かにその通りになっているような気もするけど、あのぉ、結婚は…。 一方、4番目の友達はというと、つけていたアクセサリーをすべて天然石に変え、満月の日に先生のところに通いつめ、数年後に見事結婚しましたとさ。どんどんまる。続いて、7回転んでるのに9回起きちゃうくらい懲りない占いツアーグループは、別の占い師情報をゲット。その占い師の名は「ター・オンバル」。なんと訳すと「塩じい」じゃ! さっそくツアーを組んで家へ行くと、上半身裸で下はサロンをまいてドデンと部屋の真ん中に座り、周りに占ってもらいたい人々を座らせていました。占ってもらっているのは、飲食店か何かを経営する夫婦。最後に
「先生、どうか最後にアレをいただきたいのですが」
とお願する。すると、塩じいはおもむろに「塩」を取り出し、それに向かって呪文を唱え始めたのです。おお、これかぁ~。塩じいだ~。そうなんです。この占い師は商売人たちに、呪文を唱えた塩を分け与えていたのです(もちろん有料)。この塩を使って調理をすると、料理がおいしくなって評判の店になるんだそうです。ふぅ~ん。まぁ、商売以外もきちんと占ってくれましたよ。恋愛も結婚も。そして最後にしっかり「塩はいらないか」と言われました。丁寧にお断りしたけど、今となってはあの塩をいただいて、好きな人に手料理を食べさせて、しっかりゴールイン! なんてストーリーもあったのかしら…。
 このほかにも、メンバーはどんどん変わるのに私だけなぜかいつもいる懲りない占いツアーグループは、いろんな情報をゲットしてはプノンペン市内、郊外へと、今思えばガソリンを「浪費」して、愛のため、未来のために駆けずり回っていたのです。
 さてさて、タイトルの通り「満月」と「塩じい」ときたので、次の占い師は「わたし」って、私?そう私です。自分の恋愛になるとなかなか奥手な私ですが、他人のこととなると、昔から時々ピンとくることがあるのです。これまでにゴールインさせたカップルも、別れさせたカップルも数知れず…。報告はないけど実は感謝されてたり、恨まれてたりすることがいっぱいあるのかもしれない。ああ、非凡な自分が怖い…。いやいや、それはともあれ昔から、何か直感が働いていろんなことを判断してきました。なので、結構信じてるんです。この直感力。自分がまだゴールインしてないくせに、人のことどうこう言える立場かいって思うかもしれませんが、ピンときてれば私も、自分をゴールインさせている自信あるんですけどねぇ~。ともあれ、占い師「わたし」なら、通訳雇う必要もないのでお気軽に声をかけてください。その結末がどうなるかは保証しませんが。
 ということでみなさん、「満月と塩じいとわたし」、どの占い師に占ってもらいたいですか? せっかくカンボジアで生活するのだから、一度はカンボジアン占いをお試しあれ!

<ユキ姐さん・プロフィール>
通称ボンユキで知られるユキ姐さん。カンボジア在住18年なのでそれなりの年齢と推定されるが、あくまでも年齢不詳。
通訳・翻訳・マネージメント業にチョー忙しいのに、飲み&カラオケは欠かさない。「ぶれない女」の鏡を目指して日々奮闘中。