プログラムオフィサーとして地方教育行政に携わる

青年海外協力隊平成22年度4次隊
上田 美和

 皆様こんにちは。青年海外協力隊平成22年度4次隊の上田美和と申します。現在私はクラチェ州教育青年スポーツ局にプログラムオフィサーとして派遣されています。2011年3月に赴任し、2年間の任期の半分が過ぎたところです。人々が暖かく、大好きになった国カンボジアで活動したこの一年間の活動紹介をさせていただきます。

■赴任に至るまで


 2002年から3年半の英国留学後、2005年に地元島根県でジュエリーショップを開業。経営は5年間順調で、英語教室も同時に開講していました。その間2008年に、英国留学体験記を自費出版し、それを読んだ松江市立女子高等学校の校長先生から、学校評議員のご依頼をいただき、3年間勤めることに。また同校で、キャリア教育の講師も3年間勤め、2009年には同校が文部科学省の英語教育推進のための指定校になり、その委員も1年間兼任。教育の重要性をあらためて実感すると共に、学生たちに広い世界を知ってもらいたい、また自分自身の視野を広げたいと思い始めていたその頃、偶然ある新聞記事が目に留まります。それは、カンボジアの幼稚園にJICAシニアボランティアとして派遣され、現地の園児達にプレゼントされた人形を大事そうに抱えて笑顔でボランティアのやりがいを語るある女性の体験談でした。それを読んだ瞬間、「これだ!」と思った私は、店を一時休業し今この国にいるというわけです。
 そんな私に与えられた任務は「教育分野での地方分権化・業務分散化政策を進める上での地方行政機関のキャパシティー向上のための支援」という大きなテーマでした。いったい自分にできることは何なのか?自問自答しながら、クラチェ州教育局に赴任しました。自分にこの任務が務まるだろうかと感じていた矢先、JOCV同期で同職種バッタンバン州教育局配属の加瀬さんからの「日本でのマネージメント経験を活かしたらいいんじゃないの?ジュエリーショップも教育行政もマネージメントする点では一緒だよ。」という言葉がきっかけで、自分らしくできることから始めようという心構えが出来ました。
孤児院英語レッスン

■2011年4月~2012年5月までの主な活動紹介


 配属先の正式課名は「計画財政物資課」(以下「計画課」)といい、財政課と計画課が一体となっています。11名の職員中、私のカウンターパートとなる計画課の業務担当者はヴィロー氏とアシスタントのたった2人だけ。業務内容の一例を挙げると、
・年3回教育省に提出するスクールイヤーレポートの入力業務
・EMIS(後述)データに関する業務
・Education Congressの準備、資料作成
・ESP(教育戦略計画)の一環で開始されたAOP(年次執行計画)作成
・郡教育事務所と学校モニタリング視察(老朽化する校舎の建替えや新設校建設予定地の調査含む)

 地方分権化が進む中、州教育局に課せられた業務は年々増加中。ヴィロー氏たちは毎日多忙を極め、ボランティアの手助けを緊急に必要としている状況でした。そんな中、新規隊員である私の赴任を課の全員が暖かく歓迎してくれ、協力体制が整う恵まれた環境の中、任務がスタートしました。
忙しい毎日の中でヴィロー氏が手の回らない2つの業務に私は注目しました。
・EMISデータ分析作業
・郡教育事務所と学校モニタリング視察
この2つを活動のメインと決め、他の業務に関してはヴィロー氏と話し合いながらその都度フォローしていく形になりました。

EMISデータ分析作業について

 EMISとは「Education Management Information System」の略で、教育省計画局EMIS課が毎年カンボジア全国の学校統計を取ります。州教育局では9月に郡教育事務所職員を招集し説明会、12月には郡教育事務所経由で各学校から返送されたフォームの入力作業を計画課で行います。私も12月はマンパワーとなり入力作業を手伝いました。クラチェ州には現在337校の学校があり、作業終了後は、マンパワーとなったからこそ見えてきたフォームの問題点と改善案を報告書にまとめ、教育省計画局とEMIS課にフィードバッグしました。その内容に関して、今年度全国の計画課職員が招集されるEMIS会議で取り上げていただく予定です。
 話が前後しますが、昨年4月末から6月の約2ヶ月間でEMISデータ過去5年分を比較したグラフを完成させ、9月に郡教育事務所職員に対し、クメール語でプレゼンする機会を与えられました。「クラチェ州小学校就学率5年間の比較」を提示することで、各郡が他郡と比較した際の問題点を認識できる良い機会になったと思います。

郡教育事務所と学校モニタリング視察

 モニタリングは計画課、初等教育課職員と共にクラチェ州内全郡を回ります。その際、校長が就学率改善に向けてどう努力しているか調査し、現場の実態を把握、改善案を提示します。
 これまで訪問した約20校中、感動した事は、今年2月に行ったサンボー郡の中学校で生徒の目に付く図書館に就学率の目標がグラフで掲示されていたことです。なんと2015年退学率が0%になっていました。更に4月に訪問したプレックプラサップ郡の小学校では昨年度の退学者が既にゼロの学校がありました。いずれも特徴は校長をはじめ全教員が熱心に生徒宅を家庭訪問し、両親、生徒と強い信頼関係を築いている点です。こういう事実を知るとカンボジアの教育現場も捨てたものじゃないと嬉しくなります。
 その他の活動として、毎年各州で開催されるEducation Congressで副局長が前年度のクラチェ州内学校統計データをプレゼンする際の資料作成補助を行いました。
村の小学校での英語授業
 また、3月にはカンボジア南部3州(カンポット、ケップ、プレアシアヌーク)の教育局計画課をヴィロー氏と訪問し、業務の進捗状況、問題点を共有し解決策を見出す目的のモニタリングを実施しました。
 その他、カンポット州教育局配属のIOCVが開催した中学校での運動会もヴィロー氏、青少年課の職員と共に視察し、クラチェ州での開催を検討しました。更に、5月には教育関係の他州のJOCVを招き、クラチェ市内2箇所の高校でPCと理科教員を指導するワークショップの開催を企画運営したところです。
 このようにカウンターパートはもちろん、他職種のボランティアと協力し、カンボジアの教育現場の底上げにつなげることが今後の課題であり、目標です。限られた2年間という期間で一人で出来ることは有限ですが、仲間と力を合わせ、それぞれの持ち味を活かす事で可能性は無限に広がることを実感している毎日です。

■本来の活動以外のボランティア活動


 本来の活動以外に個人で行っているボランティア活動を2点報告させていただきます。
・孤児院での英語レッスン-クラチェ市内オルセー孤児院で暮らす高校生に依頼され、1年前から毎週末英語のボランティア講師をしています。進学、就職を目指すカンボジア人学生の進路相談に乗ることもあります。
・村の小学校での授業-ドイツのGIZが支援するクラチェ州チェボライ郡のサンパッティエン小学校で、時々授業を行っています。2月にはクメール語の絵本の読み聞かせと、英語の歌を指導しました。村の小さな学校には図書館がありません。生徒たちは絵本や、ましてや英語に触れる機会がないためとても喜んでくれました。
これらの活動は任期中ずっと続けていこうと思います。

■カンボジア教育の未来予想図


 今後の目標は、2020年に全国の小学校と、中学校で進級率100%、退学率0%を達成させることです。現在、学校を退学する生徒の理由のほとんどは親の仕事の手伝いのためです。特に農家では人手が足りず、子供達の手を借りざるを得ない現状。そのため小学校さえも退学する生徒がクラチェ州の平均では約10%存在します。NGOなどの支援団体からの奨学金を利用して復学する生徒もいます。しかし現実問題、全ての退学者へのフォローは困難なので、生徒自らが通学したくなるような魅力的な授業研究も進められています。

 何より感動する事は、支援団体に頼らず知恵を出し合い教育の質の向上を試みる校長や教員に出会う時です。小さな村の学校でも研修会を重ね、家庭訪問のみならず教員たちは日々努力しています。その甲斐あり、初等・中等教育を修了する子供の数は確実に増加中です。学力と自信を身につけた子供の未来の選択肢は広がり、彼らはいずれカンボジアを支える人間に成長します。また80%が農民のこの国で、農業分野の教育を受けた人たちが農業の効率化を図る手法を提案することも進級率上昇へ繋がる大事な要素です。少しずつ教育の質が向上し、いつか、カンボジアがもっと貧困で苦しんでいる他国の援助に回り、協力し合う平和な世界が訪れる日が私の夢でもあります。
 最後に、今までで一番嬉しかった事は、活動を始めちょうど1年が経つ頃、同僚の一人に「カンボジアの教育の為に毎日一生懸命働いてくれてありがとう!」と声をかけて貰ったことです。この貴重な経験を活かし帰国後は起業家として再出発しようと考えています。同時にカンボジアとずっと関わっていきたい思いもあります。収益の一部での学校設備支援や、起業家育成セミナーの企画等夢は広がっています。


クラチェ州小学校就学率7年間の比較と将来目標

上田 美和(うえだ みわ)
(青年海外協力隊平成22年度4次隊)2011年4月よりクラチェ州教育青年スポーツ局計画課にて活動中。地域の学校モニタリングを通じて教育現場の質の向上を目指し奮闘中!