カンボジア人の健康志向

金森 正臣

 カンボジアでも栄養が良くなり、太目の人が目立つようになり、公園における朝の散歩は大人気。毎朝散歩していると、様々な運動をしている団体に出会う。脳卒中などでリハビリに励んでいる人も結構見かける(写真1、2)。

写真1:トンレサップを前に気持ちよく朝の体操
写真2:脳卒中か?リハビリ中の女性

 以前に「成長談話会」と言う動物の成長の研究会に所属していたことがある。イギリスのトーマス・ハックスリーと言う相対成長の概念を作りだした人の研究を継承するものでいろいろ面白い報告があった。ハックスリーは相対成長よりもダーウインの思想を広めたことで世界に知られ、イギリスではハックスリー賞と言う賞が設立されている。皆さんハックスリーは知らなくても、肥満度計数や体脂肪率は、聞いたことがあるであろう。この様な分野は、ハックスリーの理論をもとにして発達したものである。その研究会の発表で、トリやブタに関する成長の過程で、一時期与える餌量を減らし、飢餓状態にしてから再びえさを与えると、成長が早くなり餌の効率も良くなると言う報告がいくつかあった。主に大阪府や宮城県の農林関係の研究機関の方々が、報告をしていたように覚えている。ニワトリやブタでは、飢餓状態にすることによって動物の体の栄養要求が高くなり、吸収が良くなると考えられ、成長スピードは普通より早く、最終到達点も一〇%程度大きかったように覚えている。
 この様な論理から考えると、カンボジアのポルポト時代の様な飢餓の時代を過ごしてきた人々が、生活が安定し、食料が豊富になるとどの様なことになるかはご覧の通りである。日本でも食を少なくしてダイエットした人が、リバウンドがひどくて以前よりも太ったと言う話は良く聞く。まさにこの理論に近い。以前に指導していた数人の女子学生が集まった時に、痩せる時には胸から痩せ、太る時にはお腹からふとると嘆いていた。飢餓状態から脱するとまずは生命の安全を図るためには、胸よりも腹にエネルギーを貯める方が合理的であろうと思われるから、当然であろう。そんな理論を展開したら、女子学生に恨まれるので、黙ってはいたが。胸が痩せても今は皆
さん、子持ちの良いお母さんになっているから、特に問題は起こらなかったのであろう。毎朝運動しているカンボジアの女性たちも、どう見ても胸より腹が出ている人も多い(写真3)。カンボジア人は、結構いつでも食べることが好きで、朝散歩に来ても良く買い食いをしている(写真4)。

写真3:胸より腹が成長している?
写真4:運動中でも豆乳などを買って・・・痩せないよ!

 一方でカンボジアでは、栄養不足の子どもも多くいると言う報告がある。しかしながら、カンボジアでは、児童の成長のデーターがほとんど無い。教科書に載っているデーターも、どこかの国の児童のデーターを改変したのは明らかで、あいまいな表現でしかない。従
って、栄養不足の判定も正確には行えないのが現状である。本来栄養不足かどうかは、子どもの成長のカーブを把握し、それよりどの程度外れた場合に貧栄養とするかと言った議論が有るべきであるが、元のデーターが無いので判定の仕様が無い。貧栄養とされている子どもも、貧栄養と言うよりも下痢などによる栄養摂取が出来ないでいる状態の子どもが結構いる。日本では成長の記録の無い子どもはほとんどいないが、カンボジアでは成長記録のある子どもはほとんどいない。この様な点でも教育が担う役割は大きいはずであるが、ほとんど意識すらされていない。(写真:3、5)

写真3:胸より腹が成長している?
写真5:男性でも太目は多い

 男性と女性では、太る場合には、腹の出方が少し異なる。ヘソノオは、母親の胎内にいるときの栄養や酸素の補給パイプである。そのために臍(ヘソ)には、脂肪の蓄積器官が無く、溜まらない。従って男性では、腹の中央がへこんで大きなクレーター状になる。女性も同じであるが、出産などの経験があると、腹の筋肉が一度大きくなることによってその後の締まりが良く無くなる。そのためにクレーターはほとんど影が無いくらいに周囲からせり出し、腹全体が出たように見える。そんなことどっちでも良いが、あまり太り過ぎない方が、健康には良いと思われる。