プルメリアストリート -ドクター恵子の徒然譚-

中村 恵子



 初めて読んだ人、そうでない人にも、読後感のよいものを書いてもらいたい、とこのお話をいただいたときに編集の方に言われました。読後感のよいもの・・・。かたちから入る私はまずタイトルがとても大事と、家で、クリニックで(もちろん患者さんの合間にです)と考え込みました。カンボジアを表すようなとまでは行かないまでも、タイトルを見た瞬間、皆さんが一目でカンボジアを感じられるような言葉。悩みましたね。
 車窓からボーっと外を眺めていたところ、答えが見つかりました。白く可憐な花を咲かせ一年中私たちの目を楽しませてくれる常夏の花、プルメリア。瀟洒な邸宅の庭先から顔を覗かせていたり、ブルバード沿いに何十本も街路樹として植えられていたり。
 はじめてこの国に来たとき、まだ整備途中だったロシア通りにこの花を見つけました。初めて見たのではありません。ロサンゼルスでも見たことがあります。若いときに見たときからずーっとかわいい花だと思っていました。が、実はつい数ヶ月前までこの花がプルメリアだと結びついていませんでした。お恥ずかしながら、まったくトロピカルには疎い東北人なもので。プルメリアという名前は知っていたのですが・・・。
プルメリアという優雅な響きに、白い肉厚の花弁の中心に黄色が映える花のイメージがぴったり合いますね。ストリートというのは、プノンペン路上から感じたことをサブタイトルにもあるように徒然に皆さんにお伝えしたく付けてみました。
 さて、プノンペンへ家族4人で越してきた2010年6月。皆さんも感じているかと思いますが、いろいろ驚くことがたくさんあります。一番驚いているのは、この街の加速度的な発展です。ずらーっと並んでいた仏具屋、靴屋、携帯電話屋の小さい店、というか露天商に近いような店構えのものが、あっという間に一掃され、大きなショッピングモールがオリンピックスタジアムの横にすごい勢いで建設中です。
 完成予定の絵柄を見ていたら「CHANEL」の文字も。本物の品物を売る直営店なのでしょうか。その絵をもっとよく見ていくと、おなじみのMのマーク。そうです、マクドナルド。やっとで入るらしいよ!と友人に告げると、「本当にマクドナルドって書いてあったの?」と。いや、通り過ぎざまにマークを見ただけです・・・。
 マクドナルドが入ってくるとその国には肥満も入ってくる、というのが私の持論です。じゃあ、KFCは良いのだということではありませんよ。大体の目安としてです。 日本でもマクドナルドが入った1970年代以降、肥満は増加傾向です。それに伴いいろいろな贅沢病が増える一方ですね。しかし、医療人でありながらこういうことは書いてはいけないかもしれませんが、ファーストフードの王様・マクドナルドのチーズバーガーが大好きなんですね、私。アンチ・ファーストフードの主人と結婚して本当に良かったと思うくらい(歯止めとして)です。

 絵柄は単なるイメージなのか、それとも完成予定の絵なのか、それをちょっと情報収集中です。ある方にお聞きしたら、マクドナルドの世界基準にプノンペンはまだ合っていないのでまだ入らないのではないか、ということでした。どうなのでしょうか。
 とにかく、プノンペンのこの急成長、見ていて本当にびっくりします。最近はミャンマーの投資熱に押され気味ですが、街並みはおしゃれになり道路整備も進んでいます。
 この街に来た時に思ったこと、それは「この首都の10年後を見てみたい」でした。あれから2年以上。バンコクやクアラランプールに追いつけるのか、と思案していましたが、もしかしたらそれはそんなに遠い未来ではないかもしれません。

中村恵子  (なかむら けいこ) 
プノンペン市内のインターナショナル・デンタルクリニックに勤務。歯学博士。
岩手医科大学歯学部大学院卒。勤務医、分院長を経てプノンペンへ。